◆英文契約書において頻出する語句である「in consideration of」とは、「~を約因として」を表します。
では、約因とは何でしょうか。
約因とは、英米法上の概念であり、契約当事者が互いに負担する「対価」とほぼ同義と考えられます。
この約因が契約には必須の要件と英米法では考えられています。
それはなぜかというと、契約の当事者が互いに一定の負担を負い、それが履行されることにより社会経済が発展していくからこそ契約は法的に保護するべき、という価値観があるからです。
ですので、契約が英米法上の法的保護を受けるためには、この約因がほんの一部の例外(約束的禁反言)を除いて必要となります。
例えば、商品の売買契約であれば、売り手から商品を「売り渡す約束」と、買い手からの「代金の支払いの約束」が約因となります。
また、一定の業務の提供契約であれば、「サービス(役務)の提供の約束」とその「対価を支払う約束」が約因となります。
ライセンス契約であれば、「知的財産の使用許諾」と「ロイヤルティ(使用料) の支払い」が約因となります。
また融資契約であれば、「元本の融資」と「金利の支払いの約束」が約因となります。
以上を表すin consideration ofは、英文契約書にとって非常に重要な語句であり、概念であることがお分かりかと思います。
ここで注意点ですが、秘密保持契約や保証状等の契約では、一方当事者の義務しかなく他方当事者の行う義務が無いように見える契約もあります。
このような契約の場合に英文契約書を漫然と作成しても、いざ紛争になった場合に、約因がないとして裁判所における法的保護が受けられない可能性があります。
これでは、契約書を作成した意義がありませんので、しっかりと約因を記載する必要があります。
例えば、一方のみが秘密保持義務を負い、相手方はなんの義務も負わないこととなる契約を締結する場合においても、その秘密保持契約を締結した先にある何らかの契約(業務提携契約等)の存在を秘密保持契約書にも記載することで約因の存在を明らかにする方法があります。
これは、一方当事者が負う秘密保持義務にはその後の業務提携による利益の発生という見返りがあるということを対価としていると考えられます。
まさに、約因が当事者の互いの経済的利益の発展に寄与するという機能としての存在と合致しているものと言えます。
このin consideration ofは、「約因として」と翻訳されると説明させて頂きましたが、その内容や文脈により「の対価として」や「の見返りに」と翻訳すべき場合もあります。
例えば"In consideration of the Services, AAA shall pay to BBB the amount of five million US Dollars."(そのサービスの対価として、AAA社は、BBB社に対して、500万米ドルを支払う。)という内容の場合があります。
NOW, THEREFORE,in consideration of mutual promises and covenants as hereunder set forth;
AAA and BBB agree as follows:
従って、本契約に定める相互の約束と誓約を約因として、AAAとBBBは次の通り合意する