「危険負担(risk)」を民法・UCC(Uniform Commercial Code)・CISG(ウィーン条約)・インコタームズの視点でわかりやすく解説します

英文契約書の作成・リーガルチェック・修正・翻訳を専門としている事務所です。

危険負担(risk)とは

物の輸送が伴う英文契約書において、頭を悩ますのが、この危険負担の問題です。

危険負担とは、ある時点から物の引き渡し債務が消滅しても、もう一方(金銭債務の支払い債務等)は存続するというものです。

以下、日本法とUCC(Uniform Commercial Code)、インコタームズ、CISG(ウィーン条約)での危険負担についての考え方について見ていきましょう。

日本法の危険負担 第五百三十六条(債務者の危険負担等)

第五百三十六条

1項

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2項

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

日本の民法では、危険負担はどちらが負うか

日本の民法で危険負担は債務者が負うと規定されております(債務者主義)。

危険負担の例

例えば、国際売買で売主が商品発送後に船便で商品が壊れてしまった場合、債務者たる売主は商品代金を支給しても買主に拒絶される可能性があります。

注意点

ここでの注意点は、売主は商品代金を請求できるということです。

代金債権自体は存続していますので、商品代金を請求し、買主が任意に支払ってくれれば、それも民法上問題ないということになります。

ただし、買主は代金支払いの履行拒絶権がありますので「支払わない」ことができ、契約解除される可能性があります。

民法改正前

ちなみに、改正前の民法は上記の場合でも買主は支払わなければなりませんでした(債権者主義)。

これは、目的物引渡前に債務者の過失なく目的物が滅失又は損傷した場合、特定物については、履行上の牽連性を否定し、もう一方の債務(金銭債務の支払い債務等)は存続するというものです。

例えば、注文住宅が完成後、引渡前に過失なく滅失したなら、買主はお金を払わなければならない負担を負うということを言います。

UCC(Uniform Commercial Code)の危険負担

UCC§2-509条に規定があります。

国際売買で良く問題になるのは、1項の場合ですので、簡単に説明します。

①英文契約書で、目的物の引き渡しが特定の地において行われる合意がある場合

運送人が目的物を特定の地に運び、そこで引き渡しがあった時点で買主に危険負担が移転します。

②英文契約書で、目的物の引き渡しが特定の地において行われる合意がない場合

売主が目的物を運送人に引き渡した時点で、買主に危険負担が移転します。

ポイントとしましては、UCCは所有権の所在で危険負担の分担を考えるという思考を改め、

①目的物に対する支配性(事故の防止可能性)

②損害の最小限化(付保)、

の二つが容易な当事者がその事故のリスクを負うべきだと考えているようです。

CISG(ウィーン条約)の危険負担 66条以下

第六十六条【危険移転の効果】

Loss of or damage to the goods after the risk has passed to the buyer does not discharge him from his obligation to pay the price, unless the loss or damage is due to an act or omission of the seller.

日本語訳

買主は、危険が自己に移転した後に生じた物品の 滅失又は損傷により、代金を支払う義務を免れな い。ただし、その滅失又は損傷が売主の作為又は不 作為による場合は、この限りでない。

インコタームズの危険負担 

インコタームズの危険負担は、UCCの危険負担と同様の考え方に立つと考えられますが、危険移転の場合分けが定型的になされているので英文契約書での使い勝手が良いことが特徴です。

次のページでは、EU一般データ保護規則(GDPR) を分かりやすく解説しております。

  • EU一般データ保護規則(GDPR) の解説
  • 英文契約書・日本語契約書の解説 目次へ
  • 文責 行政書士事務所 Golden Willer 国際経営・法務事務所