ここでは、英米法に基づく英文契約書(特にアメリカ契約法)と、通常の日本的な英文契約書がどのように違うのかを比べてみたいと思います。
使用する判例(White v. Benkowski Wis.1967)は、アメリカのロースクールでは必ず勉強する有名な事例を基にします。
ホワイトさんは隣の家に住むベンさんとある契約を結びました。
その契約は、ホワイトさんがベンさんの井戸から水の供給を受ける代わりに月々3ドルを支払うというものでした。
上記の事例を通常の日本的な英文契約書にすると、下記のようなものになると思います(簡易的に日本語で書いています)。
ベン(以下、甲)とホワイト(以下、乙)は以下のように契約を締結する。
1.甲は、乙に~年~月~日から10年間、甲所有の井戸から水を供給する。
2.乙は甲に月3ドルを支払う。
3.井戸水の供給システムの修理・保全にかかる料金は、甲乙が2分の1づつ負担する。
4.本契約は、以下の場合に解除できる。
①水道施設が完備された場合
②井戸が枯渇した場合
③水量が減った場合
④乙が自ら井戸を掘った場合
5.本契約の10年が経過した後は、乙において本契約を更新する権利を有する。
署名
上記の通常の日本的な英文契約書も一見して、問題は無いように見えます。
しかし、英米法、特にアメリカ契約法(コモンロー・エクイティロー)の観点からは欠陥だらけの契約書となります。
取引の目的物についてもっと詳しく特定する必要があります。
水の供給量/月や、水質、供給方法、供給方法の金銭負担者等、詳しく記載する必要があります。
3ドルの支払い方法、支払通貨、月末なのか月初めなのか、支払額の変更の可否、値上げ事由・値下げ事由等を記載する必要があります。
上記3.「井戸水の供給システムの修理・保全にかかる料金は、甲乙が2分の1づつ負担する」という規定には、甲乙の過失割合を勘案する規定がありません。
上記4.「本契約は、以下の場合に解除できる。」
①水道施設が完備された場合
水道施設が完備されても、井戸水の方が安く水質が良ければ、乙において井戸水の使用を継続したい場合もありますので、選択できる記載等が必要です。
③水量が減った場合
抽象的に書くのではなく、乙の使い過ぎによる井戸水の水量の減少の場合等、具体的に書く必要があります。
④乙が自ら井戸を掘った場合
もし、乙が井戸を掘って甲の水量が減少した場合の仮差止の規定が必要です。
英文契約書は契約書ですので、事後のリスクマネジメントについても重要です。
特に、英米法のコモンローとエクイティローの相互補填の理解からの検討が必要になります。
上記英文契約書では、まず直接損害の規定としまして、甲が井戸水の供給をストップした場合の損害賠償の規定や、損害額が算出しにくいのであれば損害額の予定の規定を置く必要があります。
つぎに、特別損害の規定としましては、乙の側からは、もし井戸水を農作業に利用する予定があり、甲が井戸水の供給をストップした場合の農作物の損害等をWhereas条項を利用して契約の目的を記載し、また、具体的な条項を置くべきと言えます。
甲側からは、特別損害については負わない旨の記載を具体的にする必要があります。
これらは英米法の判例が多数出ており、難しい問題を含みますので、よく検討する必要があります。
上記以外にも、通知の方法や契約譲渡を禁止する条項、裁判時の条項など、いわゆる一般条項と呼ばれる規定により取引をスムーズにし、紛争を事前に予防する必要があります。