英米法と日本法では、契約不履行に対する救済の考え方や損害賠償の構造が大きく異なります。 本稿では、両者の違いを整理しつつ、英文契約実務で押さえておくべきポイントを解説します。
日本の民法では、契約成立後の債務不履行に対する救済として、次の三つが中心となります。
損害賠償請求
履行の強制
契約解除
これらの救済を行うためには、債務者の帰責事由(故意・過失)が原則として必要であり、 不可抗力の場合には債務不履行責任は問われません。
英米法(コモンロー)では、契約不履行に対する主要な救済は 損害賠償請求(damages)となります。
一方、契約解除(termination)は限定的にしか認められず、次のような場合に限られます。
履行が客観的に不可能となった場合(impossibipty)
契約目的が達成不能となった場合(frustration)
英米法において契約が終了する場合、債務者の帰責事由が問われず、債務不履行とは扱われないことがあります。 例えば、目的物の引渡しが不可能になった場合、相手方の支払義務は「不履行」とはならず、 契約自体が終了するという扱いになります。
英米法は原則として債務者の帰責事由を問わない絶対責任(strict liability)を採用していますが、 上記のような契約終了の場面はその例外にあたります。 そのため、英米法の契約書では、不可抗力(force majeure)などの免責条項を明確に規定しておく必要があります。
日本法では、損害賠償請求には債務者の帰責事由が必要であり、不可抗力の場合には責任が否定されます。 また、損害賠償の対象となる利益は次の三類型に整理されています。
履行利益(期待利益)
信頼利益
現状回復利益
中心となるのは履行利益であり、これには次の二種類が含まれます。
通常損害:立証が容易で、予見可能性も不要とされています。
特別損害:予見可能性が必要で立証も困難なため、契約書での明確な規定が望ましいとされています。
英米法の損害賠償制度を理解するためには、債務不履行に対する基本的な考え方の違いを押さえる必要があります。
英米法では、債務の履行・不履行は、債務者の経済的合理性に基づく選択と捉えられています。 より高い経済価値を得るために契約を履行しないことは、社会的にも合理的であると考えられる場合があります。 この考え方は「契約を破る自由(efficient breach)」と呼ばれます。
この思想に基づき、英米法では次のような制度設計が採用されています。
債務不履行の損害賠償に帰責事由は不要であること
相手方を「履行があったのと同じ状態」に置くため、履行利益の賠償が原則となること
英米法と日本法では、契約不履行に対する救済の考え方が根本的に異なります。
日本法:帰責事由を前提とした責任体系
英米法:経済合理性を重視し、帰責事由を問わない損害賠償が中心
特に英米法の「契約を破る自由」という独自の概念を理解することは、 英文契約書の作成・レビューにおいて不可欠であると言えます。