例えば、大家さんとワンルームマンションの賃貸借契約を結び、借主さんが家賃を支払っていました。
ですが、借主さんの給料日前が家賃の支払い日なので家賃の支払いが契約書記載の時期より遅れることが多く、大家さんもいつも「仕方ないな~」と言ってそれを許してくれていた場合を想定してみましょう。
その場合には、借主さんとしましては、「いつも許してくれるのだし、大家さんは私の事情も知っているので、今月も大丈夫だろう」と考え、今月も来月も家賃の支払いが遅れます。
ところが、大家さんが突然請求すると、借主さん側からはいつも大家さんは支払いの遅れを許してくれていたのでこれは大家さんも了解済みだとして「大家さんは契約書記載時期に請求する権利を黙示的に放棄した」と主張する可能性があります。
とすると、裁判所においても種々の事情を勘案して黙示の放棄を認定する場合も考えられ、大家さんとしては契約書記載時期での請求ができなくなる恐れもあります。
この場合に、大家さんが「もう契約書の時期ではなくていいよ。契約書の権利を放棄するよ。」と言うことを「権利放棄(Waiver)」と言います。
他方、大家さんはいつも大目に見ているだけで、実は大家さん自身も借り入れがありぎりぎりの生活でしたので、家賃の支払いを契約書の記載時期にしっかり行っていただきたい場合もあります。
そのような場合に、いつもは大目に見ていた家賃支払いの遅れを「今月から契約書記載時期に支払っていただきたい」と通告できるように契約書に定めておくことがこの「権利非放棄(No Waiver)」という条項の意味です。
一方当事者が、一定の状況で、契約書に記載された権利を行使しない場合には、相手方としては、その権利を行使しないものと考えて、その後の取引を継続していきます。
そのような場合に、突然、権利者においてその権利を行使すると、相手方は権利者がもうその権利を行使しないものと考えて取引を継続していたにも関わらず、取引の安定性を害する結果となってしまいます。
そのような結果にならないように、本条項によって、一定の事実が生じたときに、権利を行使しなくても、権利者において権利を放棄したわけではないことを明確にしておく必要があります。
これを英文契約書で定めたものがWaiverとなります。
また、英米法や日本法には「禁反言の原則(Estoppel)」というものがあり、当事者の一方の行為に対して、相手方が信頼を持った場合には、その行為に反する行為を禁止するというものです。
この原則の適用を排除するという面もあります。
Neither this Agreement nor any provision hereof may be waived without the prior written consent of the Party against whom such waiver is asserted.
No delay or omission by either Party to exercise any right or power shall impair any such right or power to be construed to be a waiver thereof.
Consent by either Party to, or waiver of, a breach by the other Party shall not constitute consent to, waiver of, or excuse for any other different or subsequent breach.
本契約または本契約の規定について権利放棄する場合、当該権利放棄の主張を受ける側の当事者の書面による事前同意を要する 。
当事者のいずれか一方が権利もしくは権力の行使を遅滞し、またはこれを行使しなかった場合であっても 、当該権利もしくは権力を損なうものでなく放棄したと解釈されないものとする 。
一方当事者による違反に対する他当事者の承諾または権利放棄は、他の異なる違反 またはその後の違反に対する 承諾、権利放棄または免責とならないものとする 。