英文契約書では、契約違反の場合において損害賠償の問題が生じ、複雑なものになると、両当事者が様々な責任を負いますので、実際にその責任を負う事象が生じた場合には、その責任に応じた補償等がいかほどのものになるかをあらかじめ予定しておかなければ、将来のリスクに適切に対応できているとは言えません。
法律上の損害賠償請求権については、国ごとにそれぞれ異なった制度を規定していますので、可能であれば、取引を行う国や準拠法として定めた国の損害賠償請求についてその内容を調査すべきといえます。
上記が責任制限の条項の必要な理由ですが、大きな取引でない場合にまで上記のような調査を行うことは過度の負担となってしまいますし、上記調査等が負担となって海外進出自体を諦めてしまうというのは本末転倒でもあります。
ですので、通常は、特別損害や逸夫利益、結果的損害、付随的損害、については最低限、考慮する必要があるといえます(注意としまして、米国での懲罰的損害は不法行為上の責任に対するもので、契約違反に対するものではありません。)。
また、「直接損害」と「間接損害」について規定している契約書もありますが、英米法上も日本の民法上も「通常損害」「特別損害」として履行利益の救済を図ろうとしておりますし、「直接損害」と「間接損害」については法的な用語ですらないとも思われますので、考慮する必要はないかと思われます。
ここで、法務に携わる人なら一度は疑問に思うことかと思われますが、「特別損害」は考慮されるのに、「通常損害」はなぜ考慮されないのでしょうか。
これは、「通常損害」が最も基本的な損害回復ですし、裁判所も通常損害は必ずと言っていいほど認めておりますので契約書で制限しても意味がないとも考えられます(もちろん契約書によって制限は可能ですが。)。
以上のように、損害賠償請求に対する対策は、英文契約書の機能の一部であり、総称してリスクマネジメントと言います。
この責任の制限 (Limitation of Liability)の条項も、そのリスクマネジメントの重要な一つと言えるでしょう。
Limitation of Liability
In no event shall the liability of Seller for breach of any contractual provision relating to the Goods exceed the purchase price of the Goods quoted herein.
In no event shall Seller be liable for any special,incidental or consequential damages arising out of Buyer's use or sale of the Goods or Seller's breach of any contractual provisions relating to the Goods,including but not limited to any loss of profits or production by Buyer.
責任制限
商品に関する契約条項違反に対する売主の保証は,いかなる場合であれ, 本契約で見積もられた商品の購入価格を超えないものとする。
売主はい かなる場合であれ,買主の商品の使用または販売から生じた,または売 主の商品に関する契約条項違反から生じた,買主の利益または生産の損 失を含む (ただしこれに限定されない),特別,付随的または結果損害に 対して責任を負わない。
Neither party shall be liable for indirect,incidental, consequential or special damages,including, without limitation,loss of profits or revenues, punitive damages,loss of personal property or claim of the other party.
いずれの当事者も、逸失利益もしくは逸失収入,懲罰的損害賠償金,個 人財産の損失または他方当事者の請求権の喪失を含む(がこれらに限ら れない)間接的,付随的,派生的または特別損害に対する責任を負わな いものとする。